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神戸地方裁判所 昭和33年(ヲ)308号 決定

申立人 福江健一 外一名

被申立人 向井幸一

主文

本件申立を棄却する。

申立費用は申立人の負担とする。

事実

申立人等代理人は「別紙目録〈省略〉記載の家屋の内二階八畳一室(以下本件八畳の間と略称する。)に対する被申立人の占有を解き申立人等の委任する神戸地方裁判所執行吏をして申立人等に引渡さしむべし。」との裁判を求め、その理由として、

「別紙目録記載の家屋(以下本件家屋と略称する。)は元申立外樽文子(持分九分の三)同樽昭子(持分九分の四)同樽トシ子(持分九分の二)の共有物件であつたが、申立外黒川高照は右樽文子、申立外山本宗一を債務者として右樽文子、樽昭子の持分について抵当権実行の申立をなし、神戸地方裁判所昭和三十一年(ケ)第二四五号不動産競売事件として係属し、昭和三十一年九月二十七日競売開始決定がなされ、同年十月一日その旨登記簿に記入され、右決定は同月十七日右樽文子、同昭子、山本宗一に夫々送達せられ、申立人両名は昭和三十三年三月十四日右持分について競落許可決定を受け、同月二十八日競落代金納付の上同年五月九日右持分の所有権移転の登記がなされた。

ところが、被申立人は昭和三十二年二月二十日右樽文子、同昭子、同トシ子の三名より本件家屋の内階上(六畳、本件八畳の間各一室)及び階下、玄関、廊下、炊事場、便所を賃借し爾後本件家屋の内右部分につき右樽文子よりその占有を承継しているものである。

よつて被申立人は本件競売手続開始決定後に本件家屋の内右部分に入居していることが明らかであるから、申立の趣旨のような裁判を求める。」と述べた。

被申立人代理人は主文同旨の裁判を求め、答弁として「申立人主張事実は、被申立人が本件家屋の内申立人主張の被申立人占有部分を申立外樽文子より占有承継したとの点を除き、すべてこれを認める。

しかしながら、申立人等が競落したのは申立外樽文子、同昭子の持分のみであるから、同トシ子より被申立人に対する賃借権は右競落によつてはその影響を受けず、従つて被申立人は右賃借権をもつて申立人等に対し対抗し得るものである。

又、被申立人は本件競売開始決定以前より本件家屋の二階を占有していた第三者の占有を承継したのであるから、不動産競売事件の債務者及びその承継人に対してのみ許される引渡命令を受ける根拠は存しない。」と述べ、立証として証人山本宗一の証言及び被申立人本人訊問の結果を援用した。

理由

本件家屋が元申立外樽文子(持分九分の三)、同昭子(持分九分の四)、同トシ子(持分九分の二)の共有物件であつたこと、申立外黒川高照が右樽昭子、申立外山本宗一を債務者として右樽文子、同昭子の右家屋に対する持分について抵当権実行の申立をなし、神戸地方裁判所昭和三十一年(ケ)第二四五号不動産競売事件として係属し、昭和三十一年九月二十七日競売開始決定がなされ、同年十月一日その旨登記簿に記入され、右決定は同月十七日右樽文子、同昭子、山本宗一に夫々送達せられたこと、申立人等は右競売物件(持分)を競落し昭和三十三年三月十四日競落許可決定を受け、同月二十八日競落代金を納入し同年五月九日所有権の移転登記を受けたことはいずれも当事者間に争がない。

次に被申立人が昭和三十二年二月二十日右樽文子、同昭子、同トシ子の三名から本件家屋の内階上(六畳、本件八畳の間各一室)及び階下、玄関、廊下、炊事場、便所を賃借し爾後本件家屋の内右部分を占有していることは当事者間に争がない。

以上の事実によると本件家屋は前記競落により申立人等及び樽トシ子の共有に属するに至つたものというべきであるが、元来共有はその持分の割合に応じ物全体を使用収益すべき権利であつて特に共有者間の協議等の存在しない限り他の共有者の意思を無視して排他的に物の全部又は一部についてこれを行うことのできないものである。そうするとその特段の事情の認められない本件にあつては申立人等は本件家屋に対する樽トシ子の持分を取得しない限りはその意思を無視して排他的に右家屋を使用収益し占有することができず、又反対に言えば樽トシ子は右家屋をその持分に応じて使用収益すべき権利を有するものというべきである。而して競売法第三十二条により準用される民事訴訟法第六百八十七条の引渡命令が抵当権実行に基く不動産競売手続に付随して競落の効果として、不動産所有者又は競落人に対抗できない競売手続開始決定による差押の効力が生じた後の右所有者から不動産の占有承継人の占有を解いて競落人をしてその排他的な占有を取得せしめ以て完全な権利を移転し競落の効果を全からしめるものである以上、右樽トシ子の持分権により使用収益を制限せられた本件家屋の樽文子、同昭子の持分を競落した申立人等は先ず同女に対して引渡命令によつては右家屋全体の引渡を求め得ないものと云わなければならない。してみると競売開始決定による差押の効力により右家屋の内本件八畳の間を含む二階等に対する被申立人の占有がたとえ申立人等に対抗し得ないものであり、又不法なものであるとしても申立人等は所有権(持分権)に基く全共有者の為の請求なればともかく、これと性質を異にし差押の効果により競落人に対して樽文子、同昭子と同一の地位にあるものと看做される者に対してのみ発せられる引渡命令は同女等に対して許されない以上被申立人に対してもこれを求め得ないものと云わなければならない。

以上本件家屋の内本件二階八畳の間に対する被申立人の占有を解き申立人等にこれを取得せしむべき本件申立人等の引渡命令の申立はその他の点を判断する迄もなく理由がないのでこれを棄却すべく、申立費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 前田亦夫)

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